トレンチコート/娯楽

さすがに寒くて昨日からコートを着ている。と言ってもまだウールは早い気がして、コットン地のトレンチコート。

もう五年ほど着ているトレンチコートは少しオーバーサイズ気味で、丈がふくらはぎくらいまでくるんだけれど、わたしはむしろその丈感が気に入っていて、もっと寒くなって中に厚手のセーターなんかを着こんでもパンパンに見えないところも、その割にシルエットは存外スマートなところも好きだ。出先で脱いで手に持っていても皺になりづらいし、でも生地自体はぱりっと硬めのもので、いわゆるオールドタイプのトレンチコート然としているところも格好いいと思っている。でもいちばん気に入っているのは、実はそういう点よりも、裏地が淡い紫色であるという、着ているわたしにしかわからないような、些細な点だったりする。

洋服を選ぶときに最も大切にしているのは、その服が「どれだけ自分のテンションを上げてくれるか」ということ。テンションを上げてくれる要素は様々。見た目はもちろん、機能性、素材、ブランド、等々。色が鮮やかだったり奇抜な形をしていたりするものは、確かにわかりやすく気持ちよくさせてくれるけど、着心地だったり見えない部分のひと手間だったりがある洋服は、穏やかながら確かな快感を味わわせてくれると思う。ふと触れたときや鏡を見たときに、いい気持ちになれる服は最高。プロじゃない人のおしゃれなんて、結局のところ自己満足が全てだ。周囲の評価ですら、結局そこに収束されていくんだから。

自分をハイにしてくれる洋服だけを着たいといつも思うけれど、まあ仕事をしているとなかなかそうもいかないのがつらいところ。とは言え、仕事を探すとき、たいして職種にこだわりがないのが幸いして、服装の自由度が高いところをいつも選り好んではいるんだけれども。

ファッションは茶番だと言ったのは、確かイーディー・セジウィックだったと思うけど、わたしにとってファッションは娯楽。自分が楽しいことがいちばん重要。誰に見せるわけでもないけど、着脱の時、或いはちょっと裾が翻ったとき、ちらりと自分の視界に入るくすんだ紫色ごときに、いい気分になっていることをすれ違う誰一人知らないとしても、それがいちばん意味のあること。