髪/ジェニーちゃん

昨日は一カ月ぶりに美容院へ行き髪を切った。妹が美容師なので、彼女が学校を出て働き出してからはずっとそこでお願いしている。髪を切ってもらうのは好きだけれど、美容師さんと話したり好みを伝えたり(そのためにある程度自分の趣味や嗜好の開示が必要で、それを)するのが苦手で、だから身内に美容師がいるというのは本当にありがたい。もちろんそういう個人的な理由だけじゃなく、お世辞抜きで彼女の技術にはかなり信頼を置いているんだけれど。

小さいころから髪はずっと短い。長い髪が似合わない。だから高校から大学1年目くらいまでの一時期を除いたら、髪はもうずっと伸ばしていないし、これからも伸ばす予定はない。

髪のことで思い出すのは小さいころ持っていたジェニーちゃんのお人形。妹はリカちゃん人形で、わたしはジェニーちゃん人形だった。

ジェニーちゃんはリカちゃんよりも背が高く、シュッとしていて、洋服もガーリーなものばかりじゃないお洒落なものが多かった。リカちゃんみたいに甘くて可愛いだけじゃない、どこか凛としたような格好よさがあった。そこがとても好きだった。

ジェニーちゃんは髪の毛が長かった。そこだけはリカちゃんと同じで、同じようなブロンドのロングヘアだった。その髪型が、わたしはどうも気にくわなかった。

ある日思い立ってジェニーちゃんの髪を切った。耳下、肩上のボブヘア。毛先はざんぎり気味だったけれど、子どもが工作鋏で切ったにしてはうまくできていたんじゃないかと思う。

それを見つけた母は仰天していた。仰天して、怒ったように「お人形の髪はもう伸びてこないのよ!」と言われたのを覚えている。(と言っても別に怒っていたわけではないと思う。驚いて、思わず声の調子が強くなってしまったという感じだった。)

恐らく母は、一時の気の迷いでこんな風にしてしまって!と思ったのだ。だから「お人形の髪はもう伸びてこない」と言い、それは「後悔するわよ」という意味を含んでいたんだと思う。

確かに言う通りだと今なら思う。今のわたしが、もし目の前で人形の髪を切ろうとしている子に声をかけるとしたら、同じことを言うと思う。尤も、わたしは切ってしまった側の子どもだから、切ってしまった子どもには、何と言うべきなのか悩ましい。

結果から言えば、わたしは後悔しなかった。むしろますます、そのオンリーワンになったジェニーちゃんに愛着が沸いた。ざんぎり頭に櫛を通しながら、うちの子が一番オシャレ!と心の底から思っていた。

もう伸びてはこない人形の髪を切ってしまうような出来事が、あれからいくつもあった気がする。ジェニーちゃんの時とは違って後悔していることも、後悔していないこともある。