冬のけもの/スープ

今日みたいに曇った低い空の日に、ああ冬がきたんだなぁと思うのは、単純にその湿度や気温のせいだけじゃなくて、わたしが冬という季節にたいしてどうしても、暗さや静かさや憂鬱さのようなイメージを持っているせいなのかもしれない。

寒さに弱いのは、もうずっと昔から。寒い朝、寒い寒いと布団の中にうずくまると、自分が動物になったような気持ちになる。ヒトではなくてけもの、という意味の動物。そのけものは秋のうちに掘った穴の奥、落ち葉を敷きつめた上に丸くなり、ふかふかの毛が生えた自分のお腹に頭をこすりつけながら、まだ浅い眠りをさまよっている。ほとんど夢の中で、風の吹き荒れる音を遠く聞いている。早く春が来ないかな。表はどうなっているんだろう。ちょっとだけ出てみようかな。そう思っているうちに意識が遠のいて、次に目が覚めたときにはすっかり春で、お腹がペコペコに空いている。そういうけもの。

けれどもちろんわたしはけものではなくてヒトなので、春が来なくても毎日きちんと起床して、ご飯を食べたり仕事をしたりしなくちゃいけない。けものではなくてヒトなので、せめてあたたかいものを食べようと思い、最近は週はじめに大鍋にスープをこしらえて、それに毎日火を入れて食べている。生姜をきかせたりミルクを入れたり、スパイスの組み合わせや具材をいろいろ試しているうちに、冬が終わればいいなと思う。

そのようにして、穴の奥でわたしのかわりに眠り続けているけものの寝息を聞きながら、今日も鍋に火を入れる。