五月の薔薇/アヴェ・マリア

この季節はそこかしこで薔薇が咲いていてうれしい。

一輪一輪いかにも華やかなやつも素敵だし、モッコウバラみたいな小ぶりなやつが一斉にわっと咲いているのも良い。そういえばモッコウバラには棘がないということを最近知った。
もしもいつか庭のある家に暮らすことがあったらモッコウバラを植えてみたい。
ふつうの薔薇より手入れは楽だと聞くし、ふつうの薔薇より気取っていなくて庭に植えるには好もしい。もちろんふつうの薔薇でもいいんだけれど、わたしの庭にあったら何だかそこだけ浮きそうな気がする。
わたしの庭には何か果物の木を一本、それからクチナシ金木犀のような匂いのいいやつ、あとは花壇みたいにしてチューリップだとかヒヤシンスだとか春に咲くような球根系を植えてみたい。ごちゃごちゃしすぎているかな。でもとにかく果物の木とクチナシは絶対。庭を持つ予定はないけれど。

薔薇といえばわたしの通っていた幼稚園は学年分けに花の名前がつけられていた。
年少さんはバラ組、年中さんはキク組、年長さんはユリ組だった。
教会の幼稚園だったからかもしれない。
園庭にはマリア様の像があって、わたしたちは毎朝そこでご挨拶をしてからじゃないと園舎には入れなかった。週に一回は礼拝があって、園内にある教会へ行った。わたしは教会内の薄暗さとか静けさとか、それから礼拝堂に掲げられている十字架に張りつけられたキリスト像がこわかった。礼拝で歌う、『アヴェ・マリア』の歌詞をずっと間違えて覚えていた。「アヴェマリア」と歌わなくてはいけないのに、「雨は嫌」と歌っていた。何の疑問もなく歌っていた。雨は好きでも嫌いでもなかった。